2008年07月04日

短編演劇アンソロジー四 志賀直哉篇「范の犯罪」についての考察

「范の犯罪」

范が曲芸のナイフ投げ中に
妻を刺し殺してしまったのは
故意か過失か

裁判劇の体裁ですすめられます

◎裏から見た世界

妻と裁判官を通して見ていたようです
だからか、范がとても嫌な男にしか見えなかった
自分を正当化するために、
周りを悪者にして、
仕方がなかったのだと
回りくどい言い訳をしているように感じました

子供が死んだのは過失かもしれないし
劉との関係も、事実はわからない
すべて范の想像の範疇にすぎないと

相手に確かめもしないで決めつけるなんて!!と

裁判官が范の心の内に迫る様子は
誘導尋問に見えて怖いなぁとも思いました

質問の運び方によっては、被告人を限りなく黒く持っていけるのだなと

来年から始まる裁判員制度のことも思い
裁判の難しさを感じました

どれだけ感情に流されずに事実を見ることができるのか…
自信ないです

なぜなら、裁判官が最後に「無罪」と言った時に激しく動揺しましたから
絶対に有罪だと
確信してたもの私…

何だか裁判官に裏切られた気がしてしまいました

何故、無罪なのか…
帰り道に考える

状況証拠が曖昧である以上、無罪なのか…

有罪よりも無罪の方が、より范を苦しめるからじゃなかろうか

壁を破り続ける人間は即ち、破り続ける壁を必要とする
有罪はその壁を与えることになってしまう…から?

◎小説の世界

舞台上で生きてた役が小説では存在しない、若しくは少し語られるのみ
奉(助手)の役割の相違…
范の人物像の相違
ハナちゃんの存在


そこにキンダーさんの思索があるはずです

小説の范は言わば、超えている感じがしました

は目の前で死んだ妻のことよりも
自分が故意にしたのか過失だったのかに
こだわる

つまりは
自分がどうしてこのような過ちを犯したのかにこだわる

妻を殺したことよりも
自分が何者であるかを見失うことをおそれているのか?

だから自分の中で整理し
全てを理解したがってる

自分の中で納得できればそれでいい

実体としての妻はもういない
だから妻の存在もどうとでもできる
妻を完璧に支配できる

そんな自己完結を感じた

妻がした不思議な顔
それを自分に殺されるかもしれない恐怖と語るけど
本当は不思議な顔をした妻に対する自分の恐怖心を妻の顔の上に見た
のではなかろうか

ラストを敢えて無罪としたところに
何か反発心を覚える
なぜ無罪というラストを選ぶのか

自分が正しい人間と思っているのか

◎表の世界

劉が范の妻に言った
「故意だろうが不注意だろうが赤ん坊を殺したことには変わりはない」
と言う言葉は
范にも当てはまる

妻は法的な罰は受けず、が、後に罪を告白したけど、実際どうだったのかはわからない
しかし実際どうあれ
一度でも
「この子さえいなければ…」
と願うことがあったなら
自分のせいだと自分を責めるものなのではないか
それがすでに罪であると

范も
ナイフが妻の喉を刺すまで
死んで欲しい
殺したい
とは想像しても
殺すことは考えていなかった
しかし、死んでほしいという願いが誘因していたかもしれない
しかし范は行為と思いを別々なものとして逃れた

妻は奉に救いを求めた
が、きっと受け入れられなかった
ように思われた
絶望に落とされたのではないか

考えてみると
奉と妻のやりとりも
ハナと妻のやりとりも
范の口から裁判官へ語られたもの

まさか立ち聞きしたようにも思えないし、
そう考えると
奉はもうひとりの范
なのだろうか
妻を愛する自分の心うちを投影して語る

范は実際の妻は憎むべきものとした
しかし心うちでは愛していた
その相反する思いが彼を追い詰めた

ハナちゃんは妻を憎む自分の投影
范は憎むという行為が自分にあるのが許せないのだから
それを彼女に投影して語る

自分の中にあってはならないものは
自然に沸き起こる感情さえも否定して
他者に押し付ける

受け入れられない弱さを感じる

生身の人間が
范の言葉を語ると、やはり言い訳に聞こえてきて腹立たしい

ただの自己弁護じゃん

「どうしても妻を愛することができない、自分に愛されない妻が、段々に自分を愛さなくなる、それは当然だ」

愛してほしい
という悲鳴に聞こえる
そして、
どうせ誰にも愛されないのだからと、絶望する前に予防線をはっているように感じた

舞台のラストは
お互い同意の上だった
という風に見えた

そうすると妻は
范をとても愛していたことになる

その愛に気づかず范は
殺してしまった

その意味を考えもせずに

例え、無罪となろうと
彼がこの先に歩む道は地獄だと思う
posted by ななこ at 13:54| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | キンダースペース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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